
一年を通して「高齢者の脱水」という言葉を耳にします。
特に気温の高い季節になるとニュース等でも、
多く聞かれる様になります。
しかし、脱水症の症状や、種類、
そして命の危険性にまで、目を向ける事は少ないと感じます。
「水分をしっかり摂れば大丈夫じゃない?」等、
医療者であっても、曖昧な返答をする事があります。
ここでは、
脱水症の定義から、種類や症状、
そして高齢者ならではの危険性をご説明してゆきます。
- 目次
1.脱水症とは
2.脱水症の種類、症状、予防策
2-1.脱水症の種類と症状
2-2.表や図で危険度を知ろう
3.高齢者は何故脱水症になりやすいのか
4.まとめ
1.脱水症とは
まず初めに、脱水症って?
水が飲めなくなって起こる症状だっけ?
と、思ってしまうかもしれません。
しかし、かなり奥の深い症状です。
一言で表すのならば、
「体内の水分(体液)が不足した状態を言います」
体液には水分のほかに、
電解質(イオン)=・ナトリウムNa ・カリウムK ・クロールCl
・カルシウムCa ・マグネシウムMg 等があります。
これらをまとめて5大栄養素と呼ばれております。
どこかで聞いたことがあるかもしれませんね。
身体の水分(体液)にはこれらの電解質が含まれているので、
単に水分が減ってしまった、といった症状のみではなく、
電解質の欠乏のために起こる症状もあらわれます。
・ナトリウムNa
身体の水分バランスを保ち、
神経や筋肉が正常に働く助けをします。
汗や尿等とともに身体から排泄され、腎臓で調節されます。
実は、ナトリウムと塩は違いがあり、
食塩中(塩)に含まれる一部がナトリウムなのです。
食塩中に含まれるナトリウム量は全体の40%弱くらいです。
単純に言ってしまうと、塩分を摂取すればナトリウムも増えますね。
梅干しや塩辛等、しょっぱい食品に多く含まれています。
特に疾患がなければ、
一日の摂取量は食塩10g以下=ナトリウムでは4g以下となっております
(食塩10gは小さじ1と3分の2です)
・カリウムイオンK
細胞、筋肉、神経が正常に働く為に必要です。
カリウムの変化によって、
不整脈や心臓の機能に様々な変化を起こします。
消化管、尿、汗からも排出さ、
腎臓によって調整されます。
カリウムは果物、野菜、海藻などに多く含まれています。
多く摂取しすぎても、腎臓に機能に問題がなければ、
調整されて尿から排出されます。
・カルシウムCa
骨や歯の材料であり、骨にしっかり貯蔵されております。
神経や筋肉の興奮性の調節、血液凝固因子の活性、
ホルモン分泌、神経伝達物質、等
生命活動の中心的役割をしております。
小魚、豆腐、青菜、乳製品に多く含まれています。
・クロールCl
他の電解質と相互関係にあり、
身体の水分バランスを調整しています。
腎臓と密接な関わりがあります。
梅干し、味噌、醤油等の多く含まれています。
・マグネシウムMg
ほぼ骨の中にあり、骨や歯を作るのになくてはなりません。
神経や筋肉を正常に保つために働きます。
海藻類、大豆、豆腐、キナコ等に多くふくまれております。
こうしてみると、
電解質の役目として神経や筋肉、水分バランスの調整等、
身体の各部位~身体全体のバランスと保っています。
腎臓も深く関わり、必要不可欠な役割をしています。
2.脱水症の種類、症状、予防策
脱水症にも種類があり、症状も様々です。
ここでは脱水症の種類や症状、
そして予防策について、説明してゆきます。
2-1.脱水症の種類と症状
①高張性脱水とは
電解質よりも、身体の水分が多く失われてしまいます。
原因
多量の発汗、単純に水分の摂取量が少ない等、
自分で適度な水分摂取の出来ない、乳幼児や高齢者に多いです。
症状
発熱や著しい喉の渇き、口腔内に乾燥、
意識はあるが、混濁(ぼんやり)している事もあります。
②等張性脱水とは
電解質と水分が同じくらいの割合で失われます。
原因
腎臓病、出血、何らかの原因によっての下痢や嘔吐等、
体液を一気に排泄するときに生じやすいです。
症状
めまい、立ちくらみ、喉の渇きがあり、
喉の渇きによって水を沢山(電解質に入っていない水分を飲んでしまう)
飲んでしまい、それによって、電解質が薄まってしまう。
それが原因となり低張性脱水になってしまいます。
等張性脱水から低張性脱水になる事も多いです
③低張性脱水とは
水分よりも電解質が多く失われます。
原因
長時間の運動等で、多量の発汗を伴った時、
発熱、発汗、下痢、嘔吐等があった時、
電解質の少ないお茶や水のみを補充する事で起きます。
症状
発熱や喉の渇きはなく、口腔内など乾燥もありません。
初期では自覚症状も少なく、進行するによって、
全身の倦怠感眠気、手足の冷え、脈拍の増加があります。
④高齢者 隠れ脱水症
「隠れ脱水症」聞きなれない言葉かもしれません。
高齢者は感覚機能の低下があり、
喉の渇きや、熱さ、寒さに対しても、
感じにくくなっている事があります。
さらに周囲から観察しても、
はっきりとした症状が解りづらいです。
その事より、本人も周囲も気がつかないうちに、
脱水の一歩手前で初めて症状に気が付く、
又、気が付いた時にはすでに脱水症になっていた。
という状態が「隠れ脱水症」です。
観察点として、
・食欲の低下 ・なんだか何時もより元気がない
・頭痛を訴える ・最近いつもより眠っている
・痰の量が減った ・トイレに行く回数が減った
・便秘になった ・手足の先が冷たく青白い
・口の中が乾いている ・皮膚がカサカサ乾燥している
・目がくぼんでいる ・暑いのに汗をかかない
・少し痩せた感じがする等
日頃からの観察でいち早く気が付く事もできます。
2-2.表や図で危険度を知ろう
下記に全身の水分の損失(%)と、それによる症状を記載いたしました。
1% | 多量の汗、口喝 |
2%
3% |
めまい、吐き気、ぼんやりする、重苦しい、食欲減退、尿量減少
血液濃度上昇、血液濃縮、食欲減退、運動機能低下 |
4% |
全身脱力感、動きの鈍り、皮膚の紅潮化、疲労感、感情鈍麻、 感情の不安定(精神不安定)、無関心、めまい、頭痛 |
6% | 手足の振戦、ふらつき、混迷、頭痛、体温上昇、脈拍・呼吸の上昇 |
8% | 幻覚・呼吸困難、めまい、チアノーゼ、言語不明瞭、精神錯乱 |
10~12% | 筋痙攣、失神、興奮状態、不眠、循環の不全、
血液減少、腎機能不の全、生命の危機が始まる |
15~17% | 皮膚の著しい乾燥、飲み込みが困難となる、目がくぼむ、生命の危機
聴力損失、皮膚の感覚鈍くなる、眼瞼硬直 |
18% | 皮膚のひび割れ、尿生成の停止、意識消失 |
20% | 生命の危機、死亡 |
下記の図は体重の減少から見た、症状を表しております。
3.高齢者は何故脱水症になりやすいのか
ではここから、なぜ高齢者は脱水になりやすいのでしょうか?
1、筋肉の量が少ない
え?と思うかもしれません。
人間の身体の水分は、
胎児で体重の90%、子供では70%、
成人で60%~65%、老人は50%~55%、となっております。
そして、その水分は筋肉に沢山貯蔵されています。
筋肉には水分が沢山含まれており、
水分の貯蔵庫と考えて下さい。
筋肉の70%~80%は水分と言われております。
筋肉の量が少ないという事は、水分の貯蔵出来る量も少ない、
何かがあっても予備が少ないので、対応が出来ないという事になるのです。
2.感覚機能が鈍くなってしまう
「高齢者の隠れ脱水」でもご説明しましたが、
「喉が渇く」という感覚が老化によって鈍くなってしまいます。
食事に関してもそれが影響し、空腹感を感じなくなったり、
認知症が重度ともなれば、食事自体を食べ物として、
認識できなくなってしまう事もあります。
水分だけでなく、食事からの水分や栄養の摂取が徐々に、
低下してしまいます。
3.腎臓の機能低下がある
腎臓の機能が低下する事によって、
老廃物(尿)を排出する力が一回では足りなくなり、
回数を増やして排出しています。
その為、尿の回数が増えてしまい、
老廃物を排出する為により多くの水分を使って、
排泄作業を頑張っているのです。
その事からも水分がさらに奪われやすくなってしまいます。
さらには、夜中のトイレに起きたくない、
又、介護者や家族に迷惑をかけたくない等、
の理由で自ら水分を控えてしまう事があります。
4.薬物の影響
高齢者は高血圧の薬を飲んでいる事が多く、
利尿作用のある薬や、利尿剤と併用する等、水分が失われやすくなっています。
利尿剤:尿量を増やして体内の水分を排泄させます
5.疾患による影響
代表的な疾患を挙げると糖尿病があります。
糖尿病の方は、血液中の糖分が多くなり、
尿にも糖が排泄されるようになってしまいます。
このため尿の浸透圧(濃度の高い方から低い方へ移動する事)
の関係で尿量が増え、尿の回数が多くなります。
尿の量が増えると、水分補給の為に喉が渇きます。
喉が渇いて水分を多く取るようになり、
更に尿の量、回数とも増えることになります。
悪循環に陥ってしまうのです。
以上のことから高齢者は脱水症になりやすいのです。
4.まとめ
高齢者は老化によって、
様々な要因から脱水症の危険性が増します。
予防策をしっかりと行い、
症状があっても早く気が付く事ができれば、
苦痛も少なく、安楽に生活を援助する事が出来ます。
しかし、薬との関係で、水分量を決められてしまったり、
逆に「もっと水を飲んで」と毎日せかされたり、
精神的にも苦痛が生じている事があります。
高齢者の気持ちを理解しようとするだけでも、
お互いに通じあえ、安心感を得られると思います。